あの頃には、ただのぼうっとしたひとりのこどもがいるだけなのだ。
あの頃は何も知らなかった、何にも分かっていなかった。
だからこそあきれるほど無防備に勇敢でいられたし、好きなだけ
臆病で孤独にいられた。
くだらないものを大切にして、大切なものを無造作に扱った。
あの頃出会った人たちを何人思い出すことができるだろう。
友達と呼んでいた人たちは今、何をしているだろう。
オトナは失ったものと出会って泣く。
もうあれは失われてしまったのだと思い知って泣くのである。
その時記憶はただ懐かしくていい匂いのするものではなくなっている。