無駄なことはないんだ。

 30歳の頃から、フライフィッシングに夢中になった。
 少年の頃はお定まりの鮒釣り、中学生の頃からはキャンプをしながらの岩魚、ヤマメを先輩や、一人で
 春先から、夏、そして晩秋の紅葉の渓に追いかけていた。えさ釣りで。
  
 大学生のときは奥多摩秋川渓谷にルアーで分け入った。
 麻布十番でのバーテンのバイトの帰りに掃除が終わると朝10時になる日などは、銀座「イエナ」で
 海外の雑誌『OUTDOOR』などを立ち読み、フライのことは知っていた。
 でもどこで道具を売ってるか分からなかった。

 就職をし、結婚をし、30歳のとき息子が生まれた。
 俺は6歳のときに父を亡くしているので、父親と息子の距離感の採り方の記憶がなかった。
 それで、思い浮かんだのが子どものころ自分が夢中になったことを、再開することだった。

 それがキャンプと、魚釣り・・・これがフライにはまった舞台裏。

 雪の公園や田んぼでオレンジ色のラインを飛ばしキャスティングの練習一冬。
 雪解け水が治まった7月、大朝日連峰から流れる川ではじめての岩魚。
 フライキャスティングの世界的名手、カナダ人のスティーブ・レイジェフと知り合ったのもこの頃。
 それが始まりで夏休みになると家族で大朝日山系の渓谷でキャンプをしながら、俺と息子はフライ。
 川を漕ぎ、藪をかき分け、二人で歩く。
 杉とブナの鬱蒼とした森を歩く。

 そこにあるのは行方を遮る倒木だ。

 でもよく観ると倒木の下には苔が生え、虫が集まり、ネズミが居る。
 それを狙って空に赤鳶が輪を描いている。

 倒木は俺たちが歩くには邪魔だが、この食物連鎖の世界では、その意味がある。
 カナダでは倒木のことを、ナースログ、大地を看護する木と言うそうだ。

 無駄なことは何もない、と言うことだ。

 世代交代も、倒木更新であってほしい!。